強引上司の恋の手ほどき
「おい。いい加減にしろよ」

唇をかんで我慢することしか出来ない私の背後から、低く刺のある声が聞こえた。

「課長……どうしてここへ?」

課長は私を背後にかばいながら、中村くんに向き合う。

「金子が、ふたりがこっちに歩いて行くのを見たって聞いたから」

背中しか見えずに、課長の表情はわからないけれど、その声に怒りが感じられた。

中村くんは突然現れた課長に一瞬驚いた顔をしていたけれど、すぐに鋭い視線で睨みつけた。

「部外者口出しですか? いくら部下でも……あ、そういうことか」

中村くんの顔が醜く歪む。

「深沢課長に乗り換えたってわけか? ふーん。俺にはなんも知りませんって顔して、さっさと次の男作ってたってわけ?」

課長が出てきたことで、なにか誤解をしてしまったらしい。

「違うの、深沢課長はなにも……」

私がその誤解を解こうと前にでようとしたが、課長が腕を伸ばしてそれを制した。

「だったら、どうだって言うんだ。お前が大事にしてなかったのが悪い」

「課長!」

それではまるで中村くんの言う通りに聞こえてしまう。

そこまで、迷惑をかけるわけにはいかない。

私は後ろから課長の手を引っ張る。だが課長は一向にこちらを見ず中村くんと対峙したままだ。
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