強引上司の恋の手ほどき
「おいおい、“千波”なんて気やすく呼ばないでくれよ。コイツは今日から完全に俺のなんだから。な?」

私の顔を覗き込みながら、甘ったるい声で私に同意を求める。

私はどう答えていいのかわからずにずっと口をパクパクさせていた。

そんな私達の様子をみて中村くんが「チッ」と舌打ちをした。

「好きにすればいいですよ。きっと深沢課長もこの女と付き合ったら後悔しますよ」

「なに言ってんだよ。俺は今からコイツを俺好みにするの。あ、お前は出来なかったみたいだけどな。あはははは。それにな」

課長はそれまでの軽い口調とは違い、低い声で続けた。

「後悔するのは、お前だよ。中村。行くぞ」

いつものように強引に私の手を掴んで、課長が歩き出した。振り返って中村くんを見ると私達の方を睨んだ後、旅館の方へと戻っていった。

その間もずっと、課長に引きずられるようにして歩いていた私が連れて来られたのは、奥まった場所にある足湯だった。

昼間はきっと多くの人が利用するのだろうが、今は私と課長以外は誰もいなかった。
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