強引上司の恋の手ほどき
涙が溢れそうになったけれど、私はそれをぐっと我慢して持っていた手作りのチョコを郡司さんに押し付けた。

「今日は帰ります」

「本当に?」

私は無言で頷いた。すると彼は「はぁ」溜息でそれに返して「好きにすればいい」と一言発した。

それを聞いた私は、駅へと歩き出した。涙を堪えて俯いて早足で歩く。今日のためにおろしたばかりのブーツが目に入り、切なくなった。

——こんなはずじゃなかったのに。

今頃、食事してチョコを渡して彼の部屋で楽しく過ごしていたはずだ。

でも実際の渡しは寒空の下、ひとりで泣きそうになりながら歩いていた。

いつもよりも風が冷たく感じる。

街を歩くカップルは、みんな笑顔で楽しそうに見える。街路樹に飾り付けてあるイルミネーションが涙で滲んだ。

「“好きにすればいい”って、どうすればいいの?」

いつも答えを教えてくれていた郡司さんに聞くことが出来ない。恋のてほどきをしてくれると言った相手が、喧嘩の相手なんだから。

こういうときって、どうするのが正解なんだろう。

答えがでないまま、バレンタインの街中を私はひとり歩き続けた。
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