強引上司の恋の手ほどき
「ヒーローのお出ましか」

ニヤニヤと醜悪な顔の中村くんから私を隠すように前にたった。

こうやって守ってもらうのは何度目だろうか。彼の背中を見るだけでも心の中に安心感が広がる。

「俺、もうこの会社やめるんで深沢サンにすごまれても別になんともないですから」

ヘラヘラと馬鹿にしたような態度の中村くんに課長が驚くべきことを言った。

「その転職話だけど、なくなったから」

「は? なに言って……」

それまでニヤけていた顔が、驚きに変わる。

「日芝電器への転職だろ? それ、ないから」

「そんなはず、だって日芝の営業部長が——!」

「あぁ、あの人今日付けで解雇されてるから。残念だったね」

「な、なんでそんなこと深沢サンが知ってるんだよ」

顔色がどんどん悪くなっている。

「お前、俺がこの会社に来る前にどこにいたか知ってるか?」

「日芝……でもそんなことよくあることだし」

「じゃあ、もっとヒントやるよ。日芝の社長の名前は?」

「え? たしか……深沢、っ……嘘だろ」

顔面蒼白の中村くんが、目を見開いている。しかしそこには何も映っていないようだ。
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