強引上司の恋の手ほどき
月初めの仕事の忙しさから解放されたころ、その日は久しぶりに中村くんに会う約束をしていた。

大阪の出張帰りの彼と食事の約束をしていたのだけど……。


「忘れてました」

「そっか、今日中だからな」

「はい」

昨年分と今年度分の経費の比較資料を作るように言われていたのに、すっかり忘れていた。近いうちにある監査で必要な書類だ。日程から考えても今日が課長の言う通りタイムリミットだった。


……デートキャンセルしないと。

お互いに忙しく、社内で合っても立ち話程度そのうえ中村くんの一週間の出張があったので、ふたりで合うのは本当に久しぶりだった。

楽しみにしてたのになぁ。中村くんには申し訳ないけれど、仕事だから仕方がない。

空いた時間にメールを送っておいたけれど、彼からの返信は就業時間後の今もまだなかった。

結局急ぎの仕事が残っていた経理課の社員に付き合って、結局本格的に資料の作成に取り掛かったのは十八時半を過ぎていた。

パソコンに浮かぶパーセンテージを眺めながらため息をつく。

「本当なら今頃、中村くんとご飯食べてたのにな」

肘をついたまままたため息をつくと、机の上に置いてあったスマホが震えた。

中村くんから電話だ。

『もしもし、千波。どうしたの? 今日楽しみにしてたのに』

電話口から中村くんの残念そうな声が聞こえてきて、申し訳なく思う。

「実は、仕事を忘れていて……」

私は、事実を正直に話し、謝った。しかし彼からは想像していなかった言葉が返ってきた。
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