強引上司の恋の手ほどき
電話をしてみるけれど、留守電になってなかなかつかまらない。もし折り返し電話があったらと思うと、私は帰るに帰れずに駅前のカフェで彼からの連絡を待った。

何やってるんだろう。

仕事を放っておいて出てきたのに、肝心の彼はつかまらないし。

ここでただ連絡を待って、無意味に時間だけが過ぎていく。

目の前においてあるカップの中のコーヒーがなくなったころ、やっと中村くんから電話があった。

『千波。ごめん、どうした?』

どうしたって……

電話口からは、ザワザワとした音が響いてきている。彼がまだ外にいるのがわかった。

「仕事を明日にまわしたから、会えるかと思って電話したんだけど」

『ごめん! 実はもう他の奴と合流しちゃって』

後ろから「中村く〜ん」と彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

『ごめん。呼ばれてるから行くわ』

プツンと電話が切れた。それまで耳元で聞こえていた騒々しい音が消えてカフェのざわめきだけが耳に聞こえる。

「……何やってるんだろう。バカみたい」

すごくみじめな気分になる。何をやっても中途半端で空回りばかり。

私は伝票を持って立ちあがると、会計を済ませて店を出た。

カフェを出ると私は早足で会社へと戻った。

恋も仕事も中途半端なんて自分が情けなくて仕方がない。せめて途中で放り出した仕事だけでもやってしまおうと思ったのだ。
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