強引上司の恋の手ほどき
裏口のセキュリティに社員証をかざしてエレベーターに乗り込む。仕事をきちんとこなすことで、この胸のモヤモヤを少しでも紛らわせたかった。

早足で経理課のフロアに行くと、課長のデスクのところだけ灯りがついていた。そこでひとり仕事をしている課長の姿が目に入る。

「課長……お疲れ様です」

「菅原? どうしたんだ。こんな時間に」

驚いた様子で入口に立っている私を見ていた。

「帰ってきちゃいました」

自分のデスクにいき、パソコンの電源を入れる。

課長は自分の仕事をしながら話かけてきた。

「中村は?」

聞かれると思っていたけれど、実際聞かれるとなんて答えていいのか迷ってしまう。

でも、今さら課長に隠すことなんてなにもない気がしてさっきの出来事を話した。

「連絡がつかなくて、待ってたんですけど。もう他の人と合流してたみたいで」

さすがに背後から女性の声が聞こえたことは言えなかった。

「そうか……」

「だから、仕事しに帰ってきました」

やりかけだった仕事のデータを開く。しかし未完成だった資料はすでに完成していた。

最終更新者には、課長の名前があった。

「これ、課長がやってくれたんですか?」

驚いて課長の方を見るが、課長はパソコンの画面を眺めたままだ。

「あーそれな。ついでだ」

「ついでって……」

そんなはずない。私よりもたくさんの仕事を抱えているはずの課長は時間がいくらあっても足りないはずだ。
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