強引上司の恋の手ほどき
「ってことは、イヤじゃないってことか……」

顔をそむけて言ったのでうまく聞き取れない。

「あの、よく聞き取れなかったんですけど……」

「それよりも、気分転換になったか?」

「はい。ご心配おかけしました」

気分転換にはなった。けれどやっぱり中村くんのことを考えると憂鬱になったけれど、課長に心配させないように私は無理やり笑顔を作って見せた。

しかし私のそんな様子を見た課長の顔が曇る。

「その顔には、全然ダメって書いてあるけどな」

「そんなことないですよ。もう平気ですから」

目を見ずにそう言った私の手を課長がぎゅっと強く握った。

はっとして顔を見ると課長が真剣な眼差しを私に向けていた。

「そんな顔して笑って、デートの相手が喜ぶと思うのか? 時には素直に相手の前で泣くことだって大事なんだぞ」

立ち止まって、私の顔を覗き込んでいる、穏やかな声だけどだからこそ私の傷ついた胸に響く。

デートって言ってもこれは練習で。だけど……。

じんわりと自分の目に涙が滲んでいくのがわかり、とっさに俯いて見られないようにしたけれど、課長にはばれてしまったみたいだ。

心配そうに私を見ている課長の顔を見たら、涙がポロポロと流れてきた。

「っ……う。すみません。こんな……」

必死で涙を拭うが、止めようと思ってもなかなか止まらない。

機転をきかせた課長が、近くにあった公園へと私の手を引いて入った。

私が俯いて泣き顔を隠していると、繋がれていた手をぐいっと引かれた。
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