強引上司の恋の手ほどき
「嫌われたらと思うと……なんにも言えなくて。自分に自信もないし。だからいつも彼の言うとおりにしてるんですけど、でもそれもなかなか上手く出来なくて」

「だろうな」

「え?」

想像していなかった言葉が返ってきて、泣き顔を隠しているのも忘れて私は課長の顔を見上げた。

「そんなのアイツの言うとおりになんでもかんでも出来るわけじゃないだろ。お前はお前なんだから」

背中をポンポンとまるで子供をあやすようにされる。

「中村の理想はあくまで理想。確かに努力するのは大切なことだけど、アイツに無理して合わせるっていうのは、俺は違う気がする」

「でも、彼のために望むようになりたいと思うのは間違いなんですか?」

今まで私が努力していたことは、なんの意味もなかったのだろうか?

「そうは言ってない。お前の努力も大切だけど、それと同じくらい向こうにも努力してもらわないとな。お前ばっかり頑張ってどうする。そんなの恋愛じゃない」

「中村くんに努力をしてもらうんですか?」

「あぁ。そのためにはお互いもっと話し合わないとな。お前の話をきいてると圧倒的に会話が足りない気がする。俺に話すみたいにちゃんとふたりで話しをしてみろ。わかったか?」

諭すように言われて私は「はい」と返事をした。

「じゃあ、今日の授業はこれでおしまい。ほら、帰るぞ。明日も仕事だ」

それまで私を包んでいた腕から開放される。急に守ってくれていたものがなくなった気がして、心もとなくなる。
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