強引上司の恋の手ほどき
「おはよう。千波」


「わっ!」

コーヒーに夢中になっていて、人の気配に気が付かなかった。

顔をあげるとそこには、中村くんの姿があった。

「昨日は、ごめんね。……千波と会えないと思うと寂しくなって、友達誘って飲みに行ってたんだ」

ひとつしかない給湯室の入り口にもたれて、さわやかな笑顔を浮かべている。

「怒ってる?」

そう聞かれて、私は首左右に振った。

怒ってるって言うよりも……悲しかった。

そう伝えようと口を開きかける。けれどそれは中村の言葉で遮られた。

「そのコーヒー誰かに頼まれたの?」

「あ、いえ。そういうわけじゃないんだけど」

確かに課長のために淹れたけれど、頼まれたわけではない。ここでも私は馬鹿正直に答えた。

「そう、だったら俺に頂戴。ちょうど飲みたいと思ってたんだよね」

返事を待たずに私の手から、カップを持って行ってしまう。

「あ、それ……」

私の声はとどかずに、彼がカップに口をつけた。

「うまい。千波コーヒー淹れるの上手だね。毎日飲みたいくらいだよ」

「そうかな……」

課長のために入れたコーヒーだったのに……。

「ねぇ? 毎日の意味わかってる?」

意味って……どういうことだろう。

私が不思議に思って彼の顔を見ると、彼は笑顔を浮かべて私の頬に触れた。

「かわいいなぁ。ちょっと鈍いところがやっぱりいいね」

褒められているのだろうけれど、その理由が分からない。せっかく入れたコーヒーを飲まれて戸惑っているのだ。決してかわいい顔はしていないはず。
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