強引上司の恋の手ほどき
「ごめん、もしかしたら家族かもしれないし迂闊なこといってごめんね。でも、やっぱり心配だったらちょっと確認しておいた方がいいと思う。中村くんモテそうだし、念のためね?」

私は「はい」と返事をして、トボトボとその場を離れた。

経理課に戻ると、社員食堂に向かう美月さんにつかまってそのまま連行されてしまう。

食欲なんてないけれど、午後からの業務もあるしなにか口にしておいたほうがいい。私は、きつねうどんを注文すると美月さんと一緒に席に着いた。

「千波、それだけしか食べないの?」

「はい、朝ご飯食べすぎたみたいで。それに午後の業務が始まる前に探しておきたい資料があって」

適当な言い訳を見抜かれないようになにもなかったようにふるまう。中村くんのことは仕事には関係のないことだ。私は心の中に色々と押し込めて、美月さんの話に頷きながらうどんをすすることに集中した。

私たちが座る後ろの席では、女子社員が社内の男性について話をしている。

美月さんは「こんな人の多いところで、バカなの?」と小声で毒ずく。確かに社員食堂で話をするのはリスク大きすぎる。

本人たちは小声のつもりだろうが、後ろの席の私たちは十分聞き取れる。

「実は、この間社内の飲み会のときに、深沢課長に声かけられてさぁ……」

美月さんと私の目が一瞬にして合う。まさか話の中心人物が自分たちの直属の上司だとは……。思わずふたりして聞き耳を立ててしまう。
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