強引上司の恋の手ほどき
たしかに、課長が廊下を歩いているときに話しかけるのは、女性社員だけじゃない。前の部署である営業課の後輩や、上の役職のついている人とも、軽く談笑を交わしている姿をよく目にする。

「チャラいけど、信用はできるわ。そういう珍しいタイプの人よ」

「なんだか、ものすごく納得ができる答えです」

話をしながらも、目の前の定食を全部平らげた美月さんは、お箸をおいてデザートのプリンに手を伸ばす。

「結局のところ“人たらし”なのよ。いるでしょ、自然と人を惹きつけちゃう人」

確かに、そう言う人だ。

「まぁ、私は仕事上で困るようなことがなければ、別に誰が上司でもかまわないんだけどね。でも気前よくおごってくれるから、課長は好きかな」

「現実的な理由なんですね」

ずいぶんな言い方だけど、美月さんらしい。課長のうわさ話を聞いてどこかモヤモヤしていたけれど、美月さんの意見を聞いて安心した。

課長は誰からも好かれる。そんな人なんだ。

私はそのときすでに、加藤さんに言われた『中村くんに他の女性がいるかもしれない』と言われたことなどすっかり忘れてしまっていた。

彼氏の不定疑惑よりも上司の悪い噂が気になるなんて、どうしちゃったんだろう。

そう思うけれど、私の頭の中は課長のことでいっぱいだった。
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