強引上司の恋の手ほどき
***

食事を終えて、急いでデスクに戻り仕事に取り掛かる。急ぎの事務処理とお遣いが入っていて、午後からも落ち着く時間がなく結局課長に言われた資料はまだすべてそろっていなかった。

銀行から戻ってくると、課長のデスクの内線が鳴る。しかし課長は会議に出ているようで離席中だ。

私は、代わりに自分の席で電話を受けた。

「はい、本社経理課です」

我が社は日本全国の支社、すべて内線で繋がっている。だからたとえ内線電話であっても知らない相手であることが多い。

『あれ、深沢くんは?』

聞き覚えのない声だ。

「いま課長は会議中です。戻り次第折り返し連絡するように伝えます」

『あ、そう? じゃあ、メール送ってるから確認して、大阪支社の谷本まで連絡くれるように伝えて』

「大阪支社の、谷本様ですね。かしこ参りました」

私がメモをとりながら受話器を置くと、横から美月さんがメモを覗きこむ。

「谷本さんって、次長の谷本さん? そんな人がどうして課長になんの用事なんだろう」

美月さんは、首を傾げながら自分の仕事を再開する。

きっと私が知っていること以外も課長はたくさんの仕事を抱えているんだ。だからこそ仕事でだけは迷惑をかけないよういしないと。

それが私の相談に乗ってくれている課長へのせめてものお礼なのだから。
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