強引上司の恋の手ほどき
「あ〜最後やられたー!」

悔しそうに中村くんがベンチに返ってきた。私がタオルを渡すとそれで汗を拭う。

「お疲れ様。すごかったね。シュート」

「だろ? 惚れなおした?」

「え? あ、うん」

急に言われて、返事がぎこちなくなってしまう。

「そうだ、これから打ち上げなんだけどうちの先輩たちと一緒に行くよね?」

フットサル大会が終わった後は、同じ敷地内にある広場でバーベキューをするのが恒例になっている。そのときに持ち寄ったお弁当やビールを一緒に食べるのだ。

だけど、私はさっきからどうにも体調が良くない。

試合の間だけと思って我慢していたが、どうも限界だ。

「千波、あれ見て」

中村くんがくいっと顎で刺した方を見ると、課長が大西さんと仲良さそうに話をしていた。

「やっぱ、あのふたりが付き合ってるって話、本当かな? なんか深沢課長ってチャラいイメージだったらから、ひとりの女に落ち着くとは思わなかった」

付き合ってるの?

ということは、あの日の告白に課長が答えたんだ。

遠くからでも、大西さんの嬉しそうな顔が見て取れる。

課長に彼女か……。いやあれだけかっこいいんだからいないはずないんだけど。よくわかってるんだけど。

なんだかふたりを見ていられてなくなる。

「中村くん、悪いんだけど私、また体調悪くなってきたから、帰るね」

「え? そうなの。もう先輩に参加するって言っちゃったよ。少しだけでも来れない?」

試合が終わるまでと思い気を張っていたけれど、体調には限界がきている。
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