強引上司の恋の手ほどき
「そうだね。ちょっとくらいの無理必要だよね。ごめんなさい。私体調が悪いから切るね」

「ちょ……」

中村くんが何か言葉を発していたのに、私はそれを遮るようにして電話を切った。

大丈夫?も、お大事にもなかったな……。

それが私たちふたりの関係なのだ。薄っぺらい、見せかけだけの恋人。

『本当に中村のこと好きなのか?』

課長の言葉への答えがはっきりと出た。

ミネラルウォーターを飲もうと冷蔵庫の扉を開けようとして、いつもレシピが張ってる場所に目が行く。

【早くよくなれよ】

いつもの課長のちょっと下手な字で書いてあった。

どうして私がつらいときに、手を差し伸べてくれるのは課長なんだろう。

そんなことされたら……

その瞬間、重い蓋をして閉じていた私の気持ちが溢れだした。

私が好きなのは、中村くんじゃない



私が好きなのは……課長だ。



私の中の気持ちをもう誤魔化すことも、閉じ込めることもできない。あふれ出して私の体を満たしていく。

たとえそれが叶わなくても、好きって言う気持ちだけでここまで私の気持ちを温めてくれた。

これがきっと本当の恋なんだ。

思うだけで幸せになれる。認めてしまえばすごくシンプルな話だった。

課長の書いた【早くよくなれよ】のメモを指でなぞると、私は心からの笑みを浮かべた。

その日私は、久しぶりによく眠れた。

自分に素直になることが、恋の第一歩だということ知った夜だった。
< 96 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop