ウソ夫婦
薬を打たれて、アメリカに運ばれた。
気がつくと、この廃墟の病院にいて、この分厚い資料を手渡されたのだ。
『あの場所で研究されていた薬品を完成させて』
女はそう要求した。
『覚えてないの』
『警察の資料にも『記憶がない』ってあったけど、それって本当なの?』
あすかは頷く。
『まあ、医師の診断書もついてたから、まったくの嘘ってこともないかもしれないけど』
女は渋い顔をする。
『でも、もうあなたしか生き残ってないから、やってもらうしかないのよね』
女が笑う。
『完成するまで、生きて帰れないから』
そう言った。
「おい、突っ立てるんじゃねえ。さっさと作業にかかるんだ」
男の鋭い一言で、あすかは我に返った。
結局、三ヶ月たったけれど、最後の物質が何か思い出せていない。
そして、あと三日。
三日経てば、殺される。
あすかは、諦めの笑みを浮かべた。
それもいい。
こんな生活から逃げられるし。
何より、颯太のところにいける。
あすかは、女の渡した資料を手に、部屋の隅へと移動した。丸椅子を引きずって、部屋の角に座る。
そして、もう何度も読み返した資料に、再び目を通し始めた。