ウソ夫婦

女は、資料の束をあすかの目の前に置く。その上に綺麗に手入れされた指を乗せた。

「これを、最初から最後まで読んだのよね? それでいて、まったく見当がつかないの?」

あすかは返事をしない。

「期待はずれもいいところだわ」
女が深いため息をついた。タバコの煙がゆらゆらと天井へ登っていく。

「あの研究室から運び出した資料は、これで全部。この薬を完成させるのに、物質が一つ足りない。それは何なの?」

女は机から降りて、床に膝をつく。あすかの顔を覗き込むと、真っ赤な唇に笑みを浮かべる。

「あと三日あげるわ。三日で思い出して。できなかったら、そこでアウト。あなたは用済み」
ふうっと煙を顔に吹きかける。あすかは目を閉じた。

「殺してあげるから」
女は言った。

女が部屋を出て行くと、あすかと見張りの男の二人きりになった。

「おい、やれよ」
男が面倒臭そうに言う。

あすかは、椅子をガタッと言わせて、立ち上がった。

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