ウソ夫婦

「なんだよ。お前のために日本語勉強したのに、その言い草か?」
ジェイの顔が、不機嫌に曇る。

「だって……」
あすかは胸がモヤモヤしてきた。

完全にあすかの八つ当たりだ。胸がぺちゃんこなのは、ジェイのせいじゃない。

「ゴメンナサイ」
あすかは下を向いた。ジェイの顔が見られない。

「旅行はお前が行きたいところでいい」
ジェイが言った。

「俺たち、少し離れすぎたな」
「……うん」
「I miss you(寂しい)」
「私も……会いたい」

手が届きそうで届かない、モニタの中のジェイ。

「どうしてだろうな。お前がいないと、時間が過ぎるのが、ゆっくりだ」
少し照れたように、ジェイが言葉を口に出す。

「そうだね」
あすかの目が潤んだ。

「明後日、空港に迎えに来いよ」
「うん」
「朝、十時の便だから」
「うん」
あすかは頷いた。

「もう切るよ」
「うん」
「さっき、切るって言ったのに、まだ話してる」
「そろそろ」
「寝なくちゃ」

二人は、何度も同じやり取りをかわす。明後日には会えるのに、別れが惜しい。

「本当に本当に、おやすみ」
「またな」

そして一時間後、やっと接続を切った。
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