Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 観察するようにまじまじと永瀬の顔を眺める。
 相変わらず女みたいな滑らかな肌をしている。
 新たな発見が二つ。まつ毛、長いんだ。あ、こめかみに小さなホクロ発見。
 ふと、唇に目が行く。上下のバランスのいい綺麗な形の唇。
 かっと体温が上がって顔が火照ってくる。深夜に、キスをされそうになったあの夜を思い出す。結局からかわれただけだったし、互いにあの夜に触れることなく過ごしているけど、私はふとした瞬間に思い出しては一人、赤面して小さく取り乱す。
 だめだめ、今思い出したらだめ。私は振り払うように頭を振って、ふーふーと深呼吸を繰り返す。
 落ち着きを取り戻すといつの間にか永瀬の額に置いたタオルが落ちているのに気づいて、手で持って額に当てる。そしてもう一度深く息を吐く。
 結局、突然のプロポーズがあった日から今日まで、私が一方的に惑わされて振り回されているだけだ。私生活も、気持ちも。
 むかつくけど……病気して弱ってる永瀬の顔を見ていたらイライラする気持ちは込み上げてはこなかった。
 部屋に掛けてある時計を見ると午後10時を少し回ったところ。明日も仕事だし、そろそろ帰らなきゃいけなけど……赤い顔をしている永瀬を見ていたらもう少しだけついていようと思った。

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