恋する時間を私に下さい
「か……悲しむと…思ったから……」

ーー誰よりも、一番信頼してた。
その信頼を愛情だ…と取り違えたのはコウヤさんだけど、礼生さんには関係のないことだから……

「私は……礼生さんの悲しむ顔は…見たくありません……」

それでなくても、漫画をやめようとした人です。

私と接する人を少なくすることで、守ろうとしてくれた。
でも、それは違う…と手紙を通じて説得したけど、今でもその気持ちは何処かに持ってると思う。


「…悲しむかな…」

呟くコウヤさんの表情は寂しそうだった。
失恋した後みたいな頼りなさが、垣間見えた。

「僕なんかより…君がいればいいみたいな感じだったけど…」


呆れるように目を逸らした。
視線の先には、さっきの男性の姿がありました。


「あ…あの……コウヤさん……」

あの人は誰ですか?…と問いかけそうになって、口を噤んだ。
そんなことを聞いて、どうするつもりなのか。

下手に行動を止めることもできやしない。
結局はあの一件があったから、私は礼生さんと気持ちを確かめ合うことができたんだ……。

ーーー言いたかったことを察知したように、コウヤさんは小さく笑いました。
それから、くるっと背中を向けて歩き出した。


「皆に…よろしく伝えといて……特にあの人には………すみません……って…」

礼生さんのことを『あの人』としか表現することができなくなったコウヤさんの背中を見つめました。
< 199 / 206 >

この作品をシェア

pagetop