赦せないあいつと大人の恋をして
龍哉の気持ち
 ゆっくり支度をしても時間は充分にある。一年の内で最も寒い時期。窓の外は薄曇り。いつ雪が降ってもおかしくない空模様。暖かなニットとスカート、ブーツを選んでコートも決めた。

 こんな寒い季節に、母は二十八歳で私を産んでくれた。その時、兄はもう五歳になっていたのだから、二十三歳でお母さんになったんだ。そう考えると私はまだ大人に成りきれていないんだ思う。


 十一時少し前にはマンションの外で龍哉を待っていた。すぐに白いセダンが見えて私の前で停まった。

「待った?」

「ううん。そんなことない。それより良く眠れた?」

「あぁ、もうぐっすり。ほんのさっきまで寝てた」

「やっぱり疲れてるのよ」

「うん。でも家の会社では今までには有りえなかったような大きな仕事なんだ。大変だけど遣り甲斐はある。会社のみんなも頑張ってくれてる。忙しいとか疲れたとか言っていられないよ。とにかく最高の結果を残さないといけない。また次に続くような仕事にしたいんだ」

 仕事の話をしてくれる龍哉は大好き。活き活きしてる。やっぱり男の人は仕事が第一なんだと思う。私の事は、その次に考えてくれれば良いなんて思う。

「そういえば、どうして京都だったの?」

「あぁ、京都は母さんの故郷なんだ。小さい頃は、よく連れてってくれた。子供の頃は好きじゃなかったけど、冬の京都の湯豆腐は美味かったよ。だから綾にも食べさせたいと思って。母さんが亡くなった時、きっと故郷に帰りたいだろうって分骨した。実家のお墓にも入れてあげたんだ。綾と一緒に墓参りして母さんに会わせたいって思った。俺、やっと本気で女性を好きになったって、母さんに報告しようと思ったから」

「龍哉……」
 涙が零れそうだった。

「でも、もう少し暖かくなってからでもいいよな。綾に風邪をひかせたら大変だし」

「大丈夫よ。また龍哉に看病して貰うから……」

「あぁ、いつでも看病してやるよ。でも出来れば風邪はひかないで欲しいな」
 龍哉は笑ってた。

 知らなかった。それで京都だったなんて……。龍哉が、そこまで考えてくれてたなんて……。嬉しかった。私は幸せなんだと心から思った。
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