ラヴィアン王国物語
「なぁんて、お伽噺。ねえ? サシャー」

 かんらかんらと笑いながら、サシャーの名を呼んでみたが、返事はない。
 振り返ると、アイラの後にいたはずのサシャーの姿はきれいさっぱり消えていた。

(さっさと引き上げたのかしら。白状なんだから。いいよ、一人で)

 アイラはカツカツと螺旋階段を降りた。外の光が遠い。結構深いところまで下りた様子だ。暗がりで眼を細めると土くれの扉から青い光が漏れていた。

(ここだ。光が漏れているせいで、明るい。間違いない。水の波動だ)

 光溢れる扉の前で唾を飲み下した。伸ばした手にゾワリと毛虫が這った。

「なんだおまえ」
「ちょっと、どいて。そこに用事があるのよ」

 毛虫たちは顔を見合わせ、さもおかしそうに揺れた。

《チョット、ドイテ、だってさァ。クク、可〜愛いぃ》
毛虫にケケケと笑われて、アイラはむっと頬を膨らませた。雑魚、しかも大嫌いな毛虫にバカにされて黙ってない。

「お掃除、するよ。どきなさい! ほら、ほら、ほらほらほらほら〜」

 埃を払うようにサササと手を振ると、闇の精霊はふよふよと空気に散った。

(うぅ、毛虫やっぱり嫌い〜……なんの嫌がらせよ!)

 しかし、邪魔は退けた。
 アイラが扉に手を掛けると、簡単に取っ手は動いた。

《あ! このアマ!》

 毛虫集団がまた爪先から這い上がって来た。

「いやぁっ……中に入った! あっち行ってえええっ!」

 もぞもぞと胸を這い回る毛虫に泣きっ面になったアイラに向かって、突然の風が突っ切った。
 毛虫が吹き飛ばされた。風はアイラを扉に寄せ付けまいと、吹き付けた。

「く……ぅ」

 アイラは扉に無我夢中で手を伸ばした。取っ手を掴んだところで、男の骨張った手が背後から伸びてきて、アイラの手を押さえた。

「駄目だ! こっちへ来るんだ」

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