ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「ごめん…なさい…。」

 そう言ってジアの方からそっとキースを抱きしめた。キースの胸元に顔を埋めると、それ以上に優しい腕がジアを包む。
 ずっと、きっとこの腕を求めていた。世界にたった一人の、この腕の中。安心できて、素直になれる、この場所。一番守りたくて、失いたくないもの。それはジアにとっても、キースにとっても等しく同じだ。

「ジアがごめんなら、俺もごめんになっちゃうから。…いいんだよ、ジアは謝る必要なんてない。このままずっと、あの日に言っていたことを目指してほしい。そんなジアを、一番近くで助けられるように、…一応色々準備したつもりだから。」
「え…?」

 初めて明かされることだ。ジアは顔を上げた。

「ジアの役に立ちそうな魔法を片っ端から勉強したり、編み出したりしたよ。王家にとって使える人間になれば、たとえ俺が半分魔法使いでも、受け入れてくれるかもしれないと思ったし…。何より、周りの目もそうだけど、ジアの隣に自信をもって立てる自分が欲しかった。何を言われても、これで役に立てる、救える、支えになれる、そう言い切って立ち続ける自信…って言えばいいのかな。…だからこんなに時間がかかって、こんな大騒動まで起きて…それで言えるようになるってのも情けない話なんだけど。」
「…そんなこと…ない、あたしも…ずっと考えてた。全然、理想に近づけなくて、キースのことを呼べなくて、キースが生きやすい国に…していけなくて。魔法も全然、使えないままで。」

 ジアはキースの服をぎゅっと掴んだ。

「グロウ、使えるようになってたの、嬉しかったよ。」
「時を止める、以外で使えるようになった初めての魔法。」
「うん。きれいな灯りだったよ。そして、グロウが一番最初なのも、ね。」
「でも、もっともっと役に立つ魔法を覚えて、あたしがみんなの前で一番最初に魔法を見せたかった、の。もっと早く。そしたら、魔法は怖くないって思ってもらえる。そうすればキースのことも…。」
「…ありがとう、ジア。その言葉だけで、もう充分だ。」
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