ハルアトスの姫君ー龍の王と六人の獣ー
「オレが飛べたら速いんやけどなぁ…。当面飛べそうにないねん。」
「…それは、そうかと。あんなに鱗が剥がれたら…鱗の再生までどれくらいかかるか、俺にはわからないですけど。」
「キース。」
「はい?」
「かたいねん、その話し方。どうせ年も変わらへんやろーし、別に敬語で話したい相手でもないやろ?普通でええ。それに、オレも気になることがぎょーさんある。まずはその知識や。」

 普通と言われても、出会ってすぐの人間に砕けて話せるほどコミュニケーションが得意なわけでもないけれど、ここは仕方ない。そう思ってキースは口を開いた。

「知識って、龍に関すること?処置のこと?」
「どっちもや。鱗の変色に気付き、人間に戻った瀕死のオレへの適切な処置。お前は一体何者やねん。」
「…何者と言われると、魔法使いと人間の血を引くものとしか言いようがないけど、知識を得たのは偶然だよ。」
「偶然?」

 歩き続けながら、話を進める。

「父が遺した書物の中で、龍についての記載があるものが偶然見つかった。それをたまたま読んだんだ、ジアが君にさらわれた日の夜、眠れなくてね。」
「ほーそうか。それがオレの命を救ったと。」

 キースは頷いた。

「龍の鱗は定期的に剥がれ落ちるが、一気に剥がれることはないという記載があった。色が変わったことも変だと思ったし、何より鱗が焼けていくのは変だ。鱗がなくなれば龍の形をとるのも難しいのではないかと思った。そして…。」
「それは見事に大正解やったわけやな。」
「ここに生きていて、あんなに炎をはく必要がなかったんじゃないかと思ってるんだけど。」
「その通りや。人生で初やで、あんなに炎はいたの。んでこんな代償があるっちゅーことも知らんかった。これは残さなあかんな。」

 自分のことなのに、まるで他人事のように話す。そんな姿は自分に重なって見える。
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