遠すぎる君
「しおり!」

こんなに名前を呼ばれて嬉しかった事はないんじゃないだろうか。

遼の声で呼ばれる自分の名前がこんなに愛しいと感じるなんて。

近付いてくる足音が大きくなるにつれて心が温かくなる。

「しおり」

私の後ろで足音は止まった。
後ろを振り向いた。

高等部の見慣れない制服を着た遼は

「俺、レギュラーになったんだ」

すこし恥ずかしそうに、でもその目は自信に満ち溢れている。

レギュラーに抜擢されたことは美幸から聞いて知っていた。
純粋に祝福できた。みんなより一年も早くレギュラーになれた遼は人一倍頑張ったんだろうから。

それをわざわざ別れた私に言いに来てくれた。

彼女らしき人を放って。

「そっか。おめでとう。さすがだね。」

出来る限りの笑顔で応えた。

「今からだけどな。」
遼は嬉しそうに笑った。

「そうだね。」

「今はまだ試合にはピンポイントでしか出られないんどけど…いつか、見に来てくれるか?」

「………」

なぜそんなことを言うのかわからなかったけど、
彼の申し出が嬉しかった。

私たちが実質終わったあの負け試合が
私が応援に行った最後だったから。


「…変なこと言ったか…」

「ううん!応援しに行くね。」
遼の顔がパアッと明るくなったのは気のせい?

うん。見に行こう。
いつか、遼を思い出しても胸が痛まなくなったら。


「だから、早くレギュラー出場してね。」

「おう!任せとけ!」

このやり取りが付き合いはじめの頃を思い出させてドキドキした。

その時、遼の肩越しに先程の女の子が見えた。

不安そうな彼女。


あわてて「じゃあね!」と手を振って
遼に背中を向けて歩きだした。




< 67 / 136 >

この作品をシェア

pagetop