冴えない彼はメガネを外すとキス魔になります!


遠藤さんは何事もなかったかのように先に歩きだす。
背が高く、足もその背に合わせて長い遠藤さんならもっとスタスタと歩けるはずなのに、歩調は私に合わせてゆっくりと。


先導されながら、竹林の中を歩いているとあっという間に旅館の灯りが見えて来た。どうやら竹林の中をグルグルと回っていたらしい。


「ところで亮介は?一緒じゃないの?」


そうだ、そもそも迷子になった原因は亮介と桃子さんの会話を聞いて逃げ出したからだった。


「…はい」


少し間を置いて返事で遠藤さんはすぐに悟ったらしく


「喧嘩でもした?」


「いえ…その…」


遠藤さんには少し言いづらいけど、やっぱり聞かずにはいられなかった。


「亮介と桃子さんが話しているところに遭遇しまして…なんか聞いてはいけないような内容かなと。だからちょっと走ってみたら…迷いました。」


「そこでなぜ走るのかな?」

そう言いながらニコニコしている。
確か、この人は桃子さんの婚約者だよなとじっと遠藤さんを見る。


「なに?」


「遠藤さんは…気にならないんですか?」


「なにが?」


「亮介と桃子さんの会話」


「ん~、どうせ桃子が『私の気持ちわかってるでしょ』とか『どうにかしてよ』とか言ってたんでしょ?」


えっ?その通りですが…
あなたはエスパーですか?



「へぇ…夏希さんは結婚してもそういうの気になるんだ」


「気になりますよ。私なんて亮介より年上だし、桃子さんみたいにかわいくないし、甘えられないし」


「亮介が夏希さんにべた惚れって聞いたけどな、新妻をこんなふうに不安にさせるなんてダメだな、あいつも」


「不安とかそういうんじゃないんですけど…ちょっとヤキモチというか」


「ハハハ、ヤキモチか。夏希さん可愛いね」

と言いながら、前に歩く遠藤さんが急に立ち止まり、クルッと向きを変えたので、私は勢い余って遠藤さんにぶつかってしまった。





< 133 / 145 >

この作品をシェア

pagetop