イジワル上司と秘密恋愛

「関東事業所から来たってことは綾部部長のことは知ってるんだよね?」

少し関西なまりの入ったイントネーションで、新海課長はそう尋ねた。

彼の名が出たことに少しだけ胸をドキリとさせながら、私が「はい」と頷くと、

「じゃあ感動の再会に行こか」

などと、人懐っこい顔に皺を寄せて笑い、私を挨拶に連れ出した。

新しい上司が気さくな人で良かった、などと微笑ましく思う間もなく、私の心臓は大きく高鳴っていく。

新海さんは冗談で言ったのだろうけど、私にとっては本当に心から待ち望んだ再会だ。緊張と期待と不安が入り混じって、手に汗までかいてきた。

綾部さんは当然、私が配属されることは把握している。それどころか間違いなく人事異動には携わっているはずだ。

……彼は、私がここに異動願いを出したことを、どんな風に捉えているんだろう。

受け入れてくれたことを思うと、きっと反対ではないと思うんだけど……。

色々な思惑で頭をいっぱいにしながら向かったフロアの最奥、パーテーションで仕切られているスペースに入ったとき、覚えのあるシルエットに私の心臓が最高潮に高鳴った。
 
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