イジワル上司と秘密恋愛
「そんな……全然上手くなんていってないよ……」
「春澤?」
懐かしい優しさに、思わず弱音が出てしまったことに気付き慌てて口を噤む。
「あ……えっと、もうすぐ説明会始まるから、私行くね!」
誤魔化すように無理矢理笑顔を向けて彼の手を振りほどき、廊下を駆け出した。
——やだ、私何言ってるんだろう。今さら木下くんに頼れるわけがないのに。
未だにひょっこり顔を覗かせた自分の狡さに嫌悪し、しかめた表情が消せないまま私は会場へと入っていった。
その日の夜。
説明会は三日間行われるので、関西からやって来ている私たち事業部は全員近場のホテルに宿泊となっている。
食事は皆合同で、中心となっている広報課から明日の予定の伝達があったり、綾部さんから労いの言葉と明日も頑張るようにとの挨拶があって、なんだか研修の雰囲気みたいだった。
食事が済むとそのままお酒をオーダーして飲み始める人、さっさと席を立つ人などバラバラになっていく。
私はテーブルで片桐さんとしばらくお喋りをしていたのだけど、持っていたスマホに着信が鳴ったので席を立ってひとけのない廊下へと向かった。