イジワル上司と秘密恋愛
「そういうことなら、ふたりきりの方がお話も盛り上がるでしょうから」
などと言って、仲人さんは早々に退室してしまった。
ふたりきりになってしまってどうしようと内心焦ったけれど、木下くんはむしろ嬉しそうに屈託なく笑い掛けてくる。
「春澤、今、どこに住んでるの?」
「東京だけど……」
「なあんだ、俺も今都内住みだよ。だったら東京でセッティングしてもらえば良かったな」
食事をしながらも彼は自分の近況や、さっきの仲人さんが取引会社の重役の奥さんだったせいで断れなかったことなどを明かしてくれて。
饒舌に喋る木下くんのおかげで、私はだんだんと自分の緊張が解けていくのが分かった。
「木下くん、今、社長さんなんでしょ。すごいね」
「全然。起ち上げたばっかりで四苦八苦してるよ。今回のお見合いだってぶっちゃけ取引をスムーズにさせるために仕方なく受けたぐらいだし。弱小社長は辛いよ」
「あはは、苦労してるんだ」
彼の方にもそんな事情があったのならと、なんだか肩の荷が降りた気分になる。お互いしぶしぶと受けたお見合いだったワケだ。断るのにもなんの罪悪感も感じずに済む。
そう思ってひそかに胸を撫で下ろしたとき。
「でも、春澤に会えたからお見合いして良かった。ラッキーだったよ」
木下くんはそう言って引き結んだ口元を口角だけ上げて笑った。