イジワル上司と秘密恋愛
先週の金曜日、綾部さんから週末にドライブにでも行こうと誘われていた。
けれどお見合いの予定があった私は、実家に帰省するのを理由にそれを断っていて……まさか、こんなに拗ねられているとは思ってもいなかった。
『私なんかにかまわずに“マリ”さんと過ごせばいいのに』
可愛くない照れ隠しが口をつきそうになったけど、慌てて飲み込む。そんなことを言ったところで、嫉妬心を曝け出すどころか卑屈に思われるだけだ。
口を噤んでしまった私を見て、綾部さんはふっと口元だけ優しげに微笑ませると、そのまま自分の席へ戻っていって椅子に座った。
「で、帰省楽しかった?」
パソコンの電源を入れながら尋ねてきた綾部さんに、私はフロアの隅に水差しを片付けながら答える。
「はい、おかげさまで。みんなにお土産買って来たんで、あとで召し上がってください」
「こんな時期に帰省だなんて、同窓会?」
カタカタっと、綾部さんがロック解除のパスワードを打ち込む音がやむのを待ってから、私は口を開いた。
「お見合いをしてきました」