イジワル上司と秘密恋愛
——沈黙。けれど、彼の視線がこちらを捉えて雰囲気が変わったのが分かった。
綾部さんの方を振り向かなくても感じる、冷たく射抜かれるような眼差し。
きっと気に入らないんだ、自分の所有物みたいに思っていたセフレが勝手に他の男のものになろうとしているのが。
それでもいい、私だっていつまでも彼女がいる人の浮気相手を続けていく気はないんだから。そう暗に伝えたくてお見合い話を暴露したのに、なんだか恐くて振り向けずにいた。
すると、短く息を吐き出した音とマウスを動かす音が耳に届いて、そのあと冷静な声が掛けられた。
「親に頼まれて断りきれなかった? それとも俺を妬かせようとした?」
この質問に、私は口を噤み続ける以外の選択肢なんて見つからない。
綾部さんは何もかも見抜いている。このお見合いに私の前向きな心なんかなかったことも、所詮は彼の手の平から逃げ出したかっただけの見苦しい抵抗だけだということも。
「……とてもいいお相手でした。このままお付き合いしようかと思ってます」
彼の質問に答えるのは悔しくて、私はせめてもの意地を張って違う答えを口にする。
けれど綾部さんは動揺ひとつ見せず、冷静な声色で返す。
「そんなに結婚したきゃ俺がしてやるよ」
と。