イジワル上司と秘密恋愛
——うそつき。
声色ひとつ変えずに朝のオフィスで浮気相手に甘いウソが吐けるこのひとに、私みたいな小娘がどれだけ抗っても無駄なんだ。
苦しいぐらい心臓が高鳴って、私はもう自分が怒っているのか悲しいのか嬉しいのかもよく分からない。
このまま泣きながら彼の胸を叩いてやりたいと思う。『どうしてそんなこと言うんですか、これっぽっちもそんなこと思ってないくせに』って、ボロボロに泣きじゃくって責めることが出来たなら少しは楽になれるのに。
けれどここはオフィスで、もうすぐ他の社員も出社してくる。
だから私は必死で自分の感情が落ち着くのを、ただじっと綾部さんに背を向けたままフロアの隅で待つことしか出来なかった。
先輩たちが出社して部屋に入ってくるまでの三分二十七秒。フロアには沈黙が流れ続けた。