もう一度君を  この腕に
コンコンとドアをノックした。

「どうぞ。」

中から社長の声がした。

「失礼します。」

「たった今契約を更新したところよ。あなたの企画で進めるわ。さ、座って。」

社長に言われて背もたれの高いソファの前面へ回った。

俺はソファの真ん中に座った夕美を凝視し頭の中が真っ白になった。

「こちらがモデルの安藤夕美さんよ。」

社長の声が耳に響き

俺は一瞬で我に返った。

「お久しぶりです。進藤さん。」

と夕美はなめらかに言った。

「こちらこそ。」

俺は彼女に会釈した。

「あら、あなた達、お知り合いだったの?」

社長と専務は意味深な目で顔を見合わせた。

「これって、何だかステキじゃない?」

ポジティブ思考の社長が弾んだ声を出した。

専務がまた輪をかけて口を出した。

「4人でランチに行くつもりだったんだよ。」

俺は専務に聞いた。

「専務、なぜ彼女を起用されたんですか?」

彼は俺の問いに心外だという顔をして見せた。

「決まってるよ。私好みの泳ぎだったのさ。それだけだよ。」

「あら、泳ぎだけでしたかしら?」

社長があおった。

「そうだった。潜りも優美で惚れたんだったよ。」

専務はアッハッハと笑った。

彼は街で拾ってきた若い連中を社でバイトさせるという

かなり破天荒でパーフェクトな海の男なのを

俺はすっかり忘れていた。

「ランチは二人で行って来なさい。企画がスムーズに流れるようコミュニケーションは大切よ。」

社長の言葉で俺と夕美は社長室を追い出された。

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