恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「……お前がいくらかばおうとしたって、クロはクロ。無駄な足掻きはやめたほうがいいぞ」


津田の忠告に、桐人は不敵に笑って見せる。


「……疑うのはそっちの仕事。こっちは信じるのが仕事なんでね」

「物好きなヤツ……」

「物好きついでに、現場もちょこっと見せて欲しいんだけど」


津田はしばらく考えた後で、意外にもこう答えた。


「…………わかった。口を利いておく。だが今日は諦めろ。……明日だ」

「サンキュ」


弁護士に情報を漏らし、現場の調査を許したなんてことが知れれば、津田の立場が危うくなるのは当然のこと。

それでも彼が桐人に協力するのは、桐人の実力を知っているからだった。

飄々としているくせに、真実を見抜く力は侮れない。彼は桐人をそんな風に評価していた。





桐人が警察署を出ると同時に、ポケットの中でスマホが音を立てた。

それは夏耶からの電話で、彼は不思議に思いながら画面を見つめる。


(……どうしたんだ?)


今朝、夏耶から“体調がすぐれないから病院に行く”という連絡があったばかり。

明日も来れないということだろうかと思いながら、彼はスマホを耳に当てた。




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