恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「よ。相変わらず怖い顔しちゃって、凶器まだ見つかんないの?」
「……げ。相良……お前が増本の担当弁護士なのかよ」
あからさまに口を歪めて嫌そうな顔をしたのは、刑事課の津田(つだ)という刑事である。
すらりとした長身に、睨まれたらぞくりとする、冷たい色をした切れ長の瞳。
コイツに取調べされたら、後ろめたいところが何もなくても自白してしまいそうな気がすると、桐人はいつも思う。
しかし刑事としては尊敬に値する人物であり、また津田の方も桐人には一目置いているようで、立場は違えどいくつか同じ事件を追ったこともあり、自然と親しくなった。
「まぁね。そんなことよりさ、凶器だよ、キョーキ」
「敵であるお前に捜査情報を漏らすわけないだろうが!」
「そこをなんとか! こっち、手札少なすぎんだよ」
ぱちんと両手を合わせておおげさに懇願する桐人に、津田は面倒臭そうにため息を吐く。
そして廊下を行き来する他の署員に気付かれないよう、さりげなく呟く。
「……まだ見つかってない。けどな、動機は被害者の不倫で間違いなさそうだ」
「不倫……?」
「ニュースで被害者の名前見て、取り乱した男が現場に来たらしい。話を聞くと、被害者の高校時代の同級生で、彼女が結婚する前からずーっと関係があったんだと。おそらく増本は何らかの理由でそれを知って、頭に血が上った――ってとこだろう」
「ふうん……」
(“私には妻を殺す理由なんてない”――増本さん、さっきはそう言ってたけどな)
事件に関する情報は得たが、頭を悩ませるタネが増えてしまった。
桐人はこれから迎える裁判の厳しさを予想して、眉間に皺を寄せる。