恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
桐人が弁護人をつとめる裁判はいつも人気があり、今日も三十席ほどある傍聴席は、ほとんどが埋まっている。
そこにいる傍聴人たちが、今の桐人の発言を聞いて一気にざわつき、裁判官がハンマーを叩いて注意を促した。
しかし裁判官自身も、桐人が投げかけた問いに、瑞枝がなんと答えるのか興味があった。
裁判所内の注目を一気に浴びた瑞枝は、本当のことを言うか言うまいか、しばし考え込む。
(“あの人”は、これを提出すれば、相手が相良桐人と言えど裁判に早くケリがつくだろうと言っていたけど……)
瑞枝の脳裏に思い浮かぶのは、彼女の上司である検事長の倉田という男の顔である。
彼が瑞枝のもとにやってきたのはつい昨日のこと。
そして、突然証拠品を彼女に差し出してきたのだ。自分は警察にたくさんのコネクションを持っていて、その中のとある筋から手に入れたのだと。
すでに鑑識による鑑定も済んでいて、証拠品として裁判に提出する手続きまで完了しているからと、瑞枝は何の疑いもなくそれを受け取ったのだが……
「……見つかった状況は、把握していません。昨日、上司から受け取ったものです」
瑞枝が言いにくそうに話すと、再び傍聴席にどよめきが起こった。
(でも、まさか……検事長の持ってきた証拠品に、問題があるわけない。彼はただ、私の手助けをしてくれようと……)
自分にそう言い聞かせる瑞枝だが、胸の内に黒い染みのような疑惑がぽつりと落ち、それがじわりじわりと滲んでくるのを感じていた。
そんな彼女に、桐人は容赦なく追い打ちをかける。
「その証拠品……捏造されたものである可能性があります」