恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
今になって、こうまで俊平が初恋を思い出してしまうのは、来月開催されるという高校の同窓会の案内はがきが最近来たからだ。
俊平と夏耶は、二年と三年の時に同じクラスだった。
幼なじみとはいえ、幼稚園から高校までの十五年間で二人が同じクラスになったのは、そのときだけ。
それまで、夏耶と自分は相思相愛であろうとタカをくくっていた俊平だったが、彼女と同じ教室の空気を吸ううちに、焦りに似た気持ちを抱くようになった。
いつもにこにことしていて勉強のできる彼女は、クラスの人気者。
学校にいる間は俊平と話す時間などほとんどなく、彼女の周りは男女問わず誰かしらが囲んでいて、いつもにぎやかだった。
“しゅんぺー!”と言いながら、自分の後を妹のようについてくる夏耶だったのに。
同じクラスで過ごすようになって初めて、彼女は妹ではないし自分の所有物でもないと、俊平は思い知らされたような気がした。
―――嫉妬。
今の俊平なら、その時の感情をそんな簡単な二文字で片づけることができるが、思春期の彼には胸の内に渦巻く黒い感情を冷静に分析することなどとうていできず、悶々とした思いは膨れ上がるばかりだった。
そして――。
『や、やだ――! やめて、しゅんぺー……っ』
俊平の嫉妬はあるとき爆発し、夏耶は豹変した幼なじみを前にぽろぽろと涙をこぼした。
……両想いだなんて、思い上がりもいいところだった。
夏耶は、俊平を異性だと意識しないでいたからこそ、自分の前ですべてを見せてくれていたのだと、彼はそのとき思い知ったのだ。
それから二人の間に深い溝ができ、言葉を交わすことはなくなった。
夏耶のことは極力頭から追い出すようにした俊平は、高校卒業後彼女と別々の大学に進むと、ためしに何人かの女と付き合ってみた。
けれど、どの相手とも長続きせず、やっぱり自分はまだ夏耶を忘れられないのかと女々しい自分に嫌気がさしていた頃――
今の婚約者である琴子に出会ったのだった。