恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
呆気にとられて何も言葉を発することができない俊平を、琴子は嘲るように笑った。
笑っているのに泣き出しそうな、不安定な色の瞳を揺らして。
「……裏切ったのは、一度だけ?」
「え……?」
「私と付き合い始めてから今日まで……私じゃない人を何度想ったの?」
俊平と夏耶とのことは知らない琴子だが、俊平の態度や様子から、彼の裏切りは元教え子を抱いたこと以外にもあるのではないかと、直感で思っていた。
琴子は今日、そのすべてをはっきりさせるつもりでここへ来たのだ。
傷つく覚悟はもうできている。
「俺は……」
何と答えればいいのだろう。混乱する彼は、口ごもって目を伏せた。
成り行きを見守る参列者の中には、俊平の両親もいる。親戚もいる。律子を含む地元の友人たちもいる。
……まるで、公開処刑だ。
しかし、それこそが琴子の狙いだったのだ。
今まで散々傷つけられたことへの仕返しをするために、今日はここへ来たのだから。
「俊平のお父さん、お母さんは、あなたが仕事を辞めたこと知ってるの?」
冷たい声で、琴子が尋ねる。俊平の両親は顔を見合わせ、ともに不安げな顔をしていた。
「琴子……ちょっと落ち着けって」
「あ、“辞めた”じゃないよね。“辞めさせられた”だ」
「琴子……!」
「どうして……! あんな馬鹿なことしたのよ……!」