恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
声を荒げ、俊平を責め立てる琴子の瞳には、溢れんばかりの涙が浮かんでいた。それは彼女が、まだ心のどこかで俊平を憎みきれないからだった。
自分と言う婚約者がありながら、元教え子の未成年に手を出したのは最低のことだけれど、そこには何か理由があるのではないか。いや、あってほしい。
俊平は理由もなく、自分を傷つけるような人ではないと、この期に及んで思いたかった。
しばらく沈黙が流れると、参列者のいる方から誰かが駆け出す音がした。
息子の信じられない姿を目の当たりにして、パニックに陥ってしまった俊平の母親だった。
そして、父親がすぐにその後を追う。
二人の姿が会場からなくなると、俊平は自分を落ち着かせるように細く長く息を吐いた。
(もう、観念するしかないみたいだな……。これは俺がしてきたことへの報いだ)
俊平はそう思いながら、少し肩の荷が下りたような気もしていた。
嘘つきで卑怯で情けない、最低の自分を、もう隠さなくていいのだ。誰からの信頼もなくなるかもしれないが、それでいい。
一人で抱えているのは、もう疲れた――。
「カヤ……沢野夏耶。俺は物心ついた時から、幼なじみの彼女が好きだった……」
罪を告白するような、静かで悲しげなトーンで、俊平が語り出す。
彼のために駆けつけた友人たちのうちのほとんどが、その名前を聞いてはっとした。
俊平とあんなに仲の良かった彼女が、どうして今日は来ていないのか、実は皆不思議に思っていたのだ。
……律子のような、事情を知る者たちを覗いて。
「でも、アイツとは大事な時にいつもすれ違ってばっかで……そろそろ忘れなくちゃって、そう思ったときに、琴子と出逢った」