恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「そうか……だから。俊平をやっつけるのか」


納得したように俊平が言うと、こくりと頷いたその子が自分の手で涙をごしごしを拭う。

いたいけなその姿を見ていたら、俊平は我慢が出来なくなって、思わず小さな体を強く抱き寄せた。

鼻をくすぐる柔らかい髪からは、夏耶の実家と、夏耶と、それから小さな子特有の匂いが混じりあった香りがして、愛しさがあふれる。

喉の奥から熱いものがこみ上げ、俊平は思わずしゃくり上げた。

男の子は目を見開いて驚いたようだったが、抵抗はしなかった。


「……ゴメンな」


声を震わせて、絞り出すように言った俊平に、男の子は不思議そうな顔をする。

そして俊平からそっと距離を取ると、しゃがんだまま目元を押さえる彼の顔を覗き込むようにして、口を開く。


「おれも……さっきけったりして、ごめん」


俊平は嗚咽を漏らさぬよう、黙ってかぶりを振る。

蹴られるくらいじゃ足りないと思った。

夏耶とこの子には、どんな仕打ちを受けても構わない。

彼は今、ようやく自分のしたことの罪深さに、本当の意味で気が付いていた。


「でも……たぶん、だけどさ。おかあさんなかせるのは、きっと、ちがうしゅんぺーだ」


ふと、思いついたように男の子が口にする。

俊平は、濡れた目元を覆っていた手をどけて、男の子を見つめる。


「……え?」

「だって、こっちのしゅんぺー、わるいやつじゃない」


……そんなことはない。本当は悪い奴だ。
そう思いながらも、口に出すことはできなかった。

たとえ父親だと名乗る資格のない自分でも、我が子に嫌われたくないという思いだけは一丁前にあるらしい。



< 175 / 191 >

この作品をシェア

pagetop