恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「そうか……だから。俊平をやっつけるのか」
納得したように俊平が言うと、こくりと頷いたその子が自分の手で涙をごしごしを拭う。
いたいけなその姿を見ていたら、俊平は我慢が出来なくなって、思わず小さな体を強く抱き寄せた。
鼻をくすぐる柔らかい髪からは、夏耶の実家と、夏耶と、それから小さな子特有の匂いが混じりあった香りがして、愛しさがあふれる。
喉の奥から熱いものがこみ上げ、俊平は思わずしゃくり上げた。
男の子は目を見開いて驚いたようだったが、抵抗はしなかった。
「……ゴメンな」
声を震わせて、絞り出すように言った俊平に、男の子は不思議そうな顔をする。
そして俊平からそっと距離を取ると、しゃがんだまま目元を押さえる彼の顔を覗き込むようにして、口を開く。
「おれも……さっきけったりして、ごめん」
俊平は嗚咽を漏らさぬよう、黙ってかぶりを振る。
蹴られるくらいじゃ足りないと思った。
夏耶とこの子には、どんな仕打ちを受けても構わない。
彼は今、ようやく自分のしたことの罪深さに、本当の意味で気が付いていた。
「でも……たぶん、だけどさ。おかあさんなかせるのは、きっと、ちがうしゅんぺーだ」
ふと、思いついたように男の子が口にする。
俊平は、濡れた目元を覆っていた手をどけて、男の子を見つめる。
「……え?」
「だって、こっちのしゅんぺー、わるいやつじゃない」
……そんなことはない。本当は悪い奴だ。
そう思いながらも、口に出すことはできなかった。
たとえ父親だと名乗る資格のない自分でも、我が子に嫌われたくないという思いだけは一丁前にあるらしい。