恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
しばらくすると俊平は立ち上がり、涙を乾かすように上を向いた。
そして、梅雨の晴れ間が広がる空に、長年積もった色々な想いを溶かしていく。
今まで捨てきれなかった夏耶への気持ちも、自分よりずっと純粋に彼女を見守る小さな騎士の想いに触れた今、不思議と昇華できそうな気がした。
「……あ。そういえば、聞き忘れてたけど。名前は?」
目線を空から低い場所へ戻すと、男の子は胸を張って元気よく言った。
「さわのまさと!」
「まさとか。お母さん、カッコいい名前つけてくれたな」
「うん!」
満面の笑みで頷いた真人の頭を、俊平はよしよしと撫でる。
この子にこんなことができるのも、名前を呼んでやれるのも、今日がきっと最初で最後。
そう思うと切なさに押しつぶされそうになったが、俊平はぐっと堪えて、真人の頭からそっと手を離した。
「……じゃあ俺、そろそろ行くな。買い物しなきゃいけないんだ」
「そうなの? ……つまんない」
がっかりして呟く真人に、俊平は苦笑して言った。
「あとさ……今日おれと話したこと、お母さんには内緒にできるか?」
小さな子に口止めなんてしても無意味かもしれないが、できれば夏耶に余計な心配をかけさせたくない。
「……どうして?」
首を傾げて不思議そうにする純粋な瞳をまっすぐに見つめ返せなくて、俊平は切なげに微笑んで言った。
「どうしても、だ」
そして真人に背を向けると、大股でその場から離れようとした。
――その瞬間。