恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「どう、して……?」

「……その涙はアフターケアってわけか? お前、マジで女優になれるよ」

「そんなんじゃ……!」

「俺を陥れる証拠は充分に得られたのかもしれないけど、そのために中出しまで許すとか馬鹿じゃねーの? ああ、もしデキてたら俺に色々金を請求しようって算段か。なるほどな……お前の上司、かなりの悪徳弁護士だな」


桐人は、そんなことをする弁護士ではない。

夏耶は声を上げてそう反論したかったが、今桐人を庇うことは何のプラスにもならないと察して、ただ唇を噛んだ。


「じゃーなカヤ。……お前のこと、一瞬でも自分のものにできたと思えて、幸せだったよ」


俊平が捨て台詞のように残した言葉は、彼の本心だった。

確かに昨夜求め合った時、彼は幸せだった。たとえ今、こんなにも後味の悪い結末を迎えているとしても。


「しゅんぺー! 待って――――っ!!」


夏耶の縋りつくような声を封じるように、乱暴に扉を閉めた俊平。

騙された悔しさと、昇華できなかった初恋。それから今回のことが桐人から琴子に伝わったらと思うと押し寄せてくる不安が、胸の中でぐちゃぐちゃに絡まる。


(でも……もし琴子と別れることになっても、自業自得だ――)


いくら夏耶に誘惑されたとはいえ、彼女を抱くと決めたのは自分自身。

けれど、進んだ先に会ったのは落とし穴で、情けなくUターンしてきたというわけだ。

そこまで考えるとふっと自嘲気味に笑い、乗り込んだタクシーの椅子に身を預けて、家に着くまで無理やり仮眠を取ることにした俊平。


彼のスーツの胸ポケットの中では、ある人物の仕掛けた小さな機械の充電が切れ、静かにその録音機能を停止したところだった。



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