恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「どうして、今まで教えてくれなかったんですか……?」


俊平との恋に破れたこのタイミングでそんな真実を教えられたら、ダメージはより大きくなる。

いつも、困っている人、味方のいない人の側に立って、彼らを助けるのが仕事である桐人にとって、それくらい容易に想像できるはずなのに、どうして――。

夏耶は今日の桐人の言動が、今までの彼とは別人のものであるように感じていた。


「それは……」


教えるも何も、そもそも嘘なんだから、と笑い飛ばせたらどんなに楽だろう。

けれど、今さら嘘を引っ込めることはできないし、夏耶にも少しは自分絡みのことで悩んでほしいなどと、桐人は子供じみたことを思っていた。


「……別に、理由なんてないよ。気が向いたから喋っただけ」

「そんな……」

「俺がいい加減なヤツだってことは、沢野もよく知ってるでしょ?」


突き放すようにそう言うと、桐人は店主に向かって手を挙げ、会計の準備をしていた。

夏耶も慌ててバッグから財布を出そうとすると、桐人の手がそれを制した。


「……今日は俺が誘ったからいいんだ。それに……いや、なんでもない」


静かに首を横に振る桐人。

言いかけてやめられると余計にその先が気になる、と思いながら、夏耶は桐人の横顔を見る。

けれど彼は会計ついでに店主と親しげに話し始めてしまい、そこから彼の感情を読み取ることはできなかった。



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