恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
俊平はそう言うと、琴子の髪に手を差し入れて、優しく彼女の唇を塞ぐ。
(琴子のために、形だけ夏耶を招待すればいい。あんな別れ方をしたんだ。呼んだって来るはずないだろうーー)
そんな風に思うと、俊平は何故かほっとした。
自分が結婚する姿を、夏耶には見られたくない。心の奥底でそんな意識が働いているとは気づかずに。
「俊平……私、ね」
「うん?」
どちらからともなく自然とソファに倒れ、キスが深く変わって言った頃、琴子が潤んだ目をして言った。
「ひとりでいいの。……俊平の、赤ちゃんがほしい」
それは俊平が予想もしていない言葉だった。
彼は驚き、彼女の頬に手を添えながら言う。
「琴子……けど、琴子の身体、子供産むなんて……」
「できるよ。……頑張る。だから、これからは、着けないで……?」
琴子の身体のことを思い、今まで避妊を欠かしていなかった俊平。
けれど、目の前で優しい瞳をした琴子に“あなたの子が欲しい”と言われると、体の奥からふつふつとこみ上げる愛おしさがあった。
「わかった。……琴子が、そう言うなら」
俊平の答えを聞くと琴子は満足げに微笑み、彼をもっとその気にさせようと、俊平の体の下から抜け出して、二人の位置を逆転させる。
びっくりしたような、それでいて嬉しそうな俊平の上に跨った琴子は、彼の首を引き寄せて自分からキスを仕掛けた。
「琴子……?」
「……たまには、ダメ? こういうの」
「ん……いや。……むしろ、超イイ」
クスクス笑い合った二人は、そのうち会話に吐息を混じらせ、ソファの上で重なり合った。
――もしも本当に子供ができたら、自分たちの絆はもっと深まり、今以上に愛し合えるだろう。
琴子は俊平のぬくもりに酔いしれながら、そんなことを思った。
時折目に入る、テーブルの上に広げられたの式場のパンフレットには、幸せそうな花嫁。
自分もごく近い将来ああなるのだと思うと、琴子は涙が出そうなほどの幸福で胸が満たされていくのを感じた。