恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


煮え切らない夏耶に痺れを切らして、ショック療法を試みるというのは、彼女らしいと言えば彼女らしい。

夏耶は驚いたものの、今さら律子を責めるような気にはなれず、苦笑しながら言う。


「そう、だったんだ……全然、気づかなかった……」

「ホント、夏耶って昔からニブイよね。……で? 同窓会の日、何があったの?」


(同窓会のことまで……! でも、あの日はあからさまに二人で会を抜け出したから、当然と言えば当然か……)


夏耶は観念したように瞳を伏せ、何から話そうかと思考を巡らせる。

けれど、あの日のことを反芻しながら言葉を探しているうちに、胸が詰まるような感覚に襲われてしまう。

声を発しようと口を開いたものの、言葉より先に涙があふれた。


「夏耶……?」


普通ではない彼女の様子を見て、心配そうに律子が顔を覗き込む。

律子には、すべて話さなければ――。夏耶がそう思って呼吸を整えようとすると、突然吐き気を催して、ガタッと席を立った。


「ごめ……ちょっと」


ハンカチで口元を押さえてトイレに駆けていく夏耶の後姿と、それから彼女が飲んでいたオレンジスムージーを交互に見て、律子は胸にいやな予感を抱く。

同窓会の日、久しぶりに顔を合わせた夏耶と俊平は、意味ありげな視線でお互いを見つめ合い、誰も入り込めない空気を醸し出していた。

そう思うのは自分が二人と近い関係だからかもしれないが、とにかくあの日の二人は完全に“両想い”だった。

案の定二人は会の途中で姿を消し、律子は夏耶に対して“よかったね”と思う反面、婚約者のいる俊平との道ならぬ恋など、夏耶のようなお人好しにうまくやれるはずがないと、彼女を心配していたのだ。

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