思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
「ねえねえ優那ちゃん、お菓子ちょうだいっ」
「ダメ……だよ?」
「そんなこと言わないでさー、いいじゃーん。その手にある食べかけのクッキーでもいいから~」
透に貰ったクッキーを食べていると、一目散に夕が駆け寄ってきた。
まるでおやつに反応する犬みたいに素早く。
そして忙しなく。
「これ?」
「うん、一口でいいからさ」
「でも……」
「夕?」
背後に感じる黒いオーラは、きっと透だ。
「と、透……どうしたの?」
「いやあ、優那ちゃんに群がって何してるのかなぁと」
「な、何もしてないよ~。ちょっとお喋りしてただけ。ね、優那ちゃん。」
「……うん」
あまりにもSOS的な視線を送ってくるものだから、話を合わせるしかない。
「そう。あ、まさかお菓子をねだってたわけじゃないよね」
「そ、そそそそんなことあるわけないじゃんか~。あはは。じゃあ僕、部屋に戻るねー……」
夕はそそくさとリビングを出て行った。
透はふうとため息をついて私の隣に座る。
「本当はあんなことはしたくないんだけど」
「?」
「夕がキッチンにあるもの全て食べて行くから……。冷蔵庫に入った皆のデザート、サラダに使おうと思ったキウイ、隠しておいたお菓子も全部食べられちゃうんだよ」
「それはそれは」
キッチンの守り神(透)も大変だ。
「だからこの際に、夕から一度お菓子を遠ざけて、苦しんでもらおうかと……」
「でも、それだけお菓子が好きなら部屋にも置いてあるんじゃないの?」
「大丈夫、昨日全部回収したから」
「お、おぉ、徹底してる」
そこまでされたら、食べかけのクッキーにさえも反応するわけだ。
「お菓子解禁の日には、"むやみやたらに食べ物を食べたりしません"って約束させるつもりなんだ」
透の鬼畜な性格がにじみ出ている。
ニコニコはしているけれど、ね。
まあ、それ程のことなんだろう。
何も手を出さずにそっと見守ろうと思った今日この頃。
そして、透を怒らせてはいけない。
そんな掟が自分の中で構築された。