思い出してはいけないこと(仮)加筆修正進行中
屋敷を出て歩くこと10分、大きな旅館へとやってきた。
こんな場所で入れるんだ。
受付カウンターには、綺麗な女の人が立っている。
そこで、真が券を出す。
「あの、これで」
「はい、温泉貸切の方ですね」
ふと、女の人と目が合う。
何故か彼女は目を見開いた。
だけど、すぐに目を逸らし、話しを始めた。
なんだろう。
「こちらです」
女の人に連れられたのは、奥の方にある場所。
赤い暖簾には女という文字、青い暖簾には男という文字。
「男性はあちら、女性は……こちらでお願います」
それだけ言うと、女の人はスタスタと立ち去って行った。
なんだか様子がおかしかったなあ。
「あのお客様、大丈夫かしら………。もしかして知らないんじゃ___はっ、伝えるべきだったかしら!?いけない!」
それぞれ別ののれんをくぐる。
私は、一人だ。
脱衣所は、妙な静けさと、ひんやりとした空気が漂っていた。
どうやらここは公共浴場とは違う、貸切専用みたいだ。
しんと静まり返った脱衣所で生まれた姿になり、お湯に髪をつけるのは良くないから髪も束ねる。
誰も居ないのはわかってはいるけれど、露天風呂みたいだし一応タオルは巻いておこう。
ガラッと、ドアを開ける。
「やっぱり露天風呂だ……」
夏だけどこんな姿をしているせいか空気が少しひんやりと感じる。
「うわぁ、露天風呂だ!星も見える!」
「夕、そんなにはしゃぐと転ぶよ?」
あちらの声がすぐ近くに聞こえる。
随分とはしゃいでるなあ。
「あれ、優那……?」
「優那ちゃん?優那ちゃんは壁の向こ……………えええええええ!?」
「お、おい!どういうことだよ!!」
それはこっちのセリフだ。
な、なんで壁が無いの……?
「なんかの手違い?」
「いや、そんな筈はないと思うよ」
「ねぇ、あの看板…………」
夕が、湯船の隅にたてられた看板を指す。
「貸切温泉(混浴露天風呂)……?マジか」
「っ………………か、帰る!!」
あぁ、恥ずかしい。
タオルを巻いていて正解だった。
もしかして、さっきの女の人の様子がおかしかったのは、これが関係していたからに違いない。
すると、女性の脱衣所の扉に、人影が見えた。
『お、お客様……大変申し訳ございません。こちらは混浴風呂となっておりまして……って今更言っても、もう遅いですよね……すみません』
とても申し訳なさそうな声が聞こえる。
さっきの人だ。
「えっと、じゃあ優那ちゃんが先に入って?俺たちは待ってるよ」
透がいう。
「うん、そうだね。レディーファーストだもんね。さ、蒼空戻ろ____ってちょっと!」
夕が温泉の方に目を向けると、既にお湯の中で漂っている蒼空。
「ごめん、寒かったから」
なんて自由な____
「くしゅん」
なんて思っていたら、小さなくしゃみが出た。
流石にこの格好で外にいるのは寒い。
「えっと、どうしよう……え、もうみんなで入ろう!」
透は、寒がる私を見て慌てふためいている。
「おい、血迷うなよ」
「ごめんなさい、もう無理」
寒い寒い。
我慢できずに、私は湯に足から踏み入れた。
「っておい!お前まで!」
「へっくしょん!さっむい……」
今度は夕のくしゃみだ。
「待て、お前まで入ろうとするな!脱衣所に戻れ!」
「真、この際男も女も忘れるべきなんだよ。よく旅番組でもあるじゃない、芸能人が混浴してるの」
そういいながら、温泉に浸かっていく夕。
「い、いや、それは撮影だからだろ」
「タオルがあるし、離れていれば問題なし。風邪をひく前に温まろう」
透までそういい始めた。
「ああ、もう!今ここに冷静な奴は俺だけかよ!………ぶぇっくしょい!!」