阿漕荘の2人

聖カトレシア学園 2

練無side

森川くんとの名ばかりデートから3週間が経った10月の初め

部屋で僕はジグソーパズルをしていた

ただのジグソーパズルではない

完成すると地球儀になるのだ

二次元から三次元への飛躍

昔から僕は地球儀が好きだった

何が好きかというと地球儀を作る過程が好きだ

球状のプラスチックに
扁平率が0.8くらいの楕円形の紙を張り付けるのだ
海と海、陸と陸が重なり合う

その瞬間が好きだった

しかし今になってみれば

地球儀を作る機会がなかなかやってこない事が残念だ


実は僕は今、香具山邸にお邪魔している

なぜかというと
しこさんの探し物を探す手伝いだ

「しこさんの部屋は地盤沈下でもしたのかな?
なんだか白骨遺体が出てきてもおかしくないよ」

「今は仮面を探しているから
散らかっているだけや

地震なんか起きとらん」

「しかしまぁなんで
仮面なの?しこさんが仮面なんかつけたら
みんな、驚いて腰抜かしちゃうよ」

「うちはオペラ座の怪人か?」

「それにどうしたの?
キャリーケースなんか出して?
夜逃げ?」

「あほ!
いつ、うちが自己破産したんや
キャリアケース出したのは旅行に決まってるやんか」
「キャリアケースって……
ケースにいつイデオロギーが発生したの?」

「イデオロギー?なんか、いかついな」

「メランコリーは?」

「可愛い」

「バイリンガルは?」

「エロい」

「アナキスト」

「馬鹿っぽい」

「楽しいね」

「キミの頭の中がな」

「お土産よろしくね」

「アロハシャツとか?」

「あれは和服が元ネタだから
逆輸入モノなんだよ

ってかハワイに行くの?」

「アムネスティ インターナショナル的なとこ」
「女性権利保護団体?
それ、ノーベル賞取ってるよ」

「女性?うーん確かに女ばっかやな」

「うわー百合の園だね!」

「……なしてそんな事しってるのかいな」

「反対が薔薇なのが頂けないよね

ルピナスあたりが妥当」

「……キミ、最近、下ネタ多いよ」

「お土産はマカダミアナッツで」

「いや、ハワイちゃうし

神戸やしな」

「えっしこさんったら
ついに自主退学?!

やめちゃうの?!」

「やめとらん、やめとらん
母校の文化祭に行くだけや」

「ふうん
でも、なんで仮面?
ズカ部で劇でもするの?」

「まぁ近くて遠いな
舞踏会やで」

「舞踏会!!
高校の文化祭で!!」

「櫻子と似たような反応するなー

普通やろ

猫に小判や」

「意味ちがうよ

えーすごーい!さすがお嬢様高校だね

やること全部が規格外!」

「それ、褒めとんのかぁ?

うちらかてな、世間のしがらみちゅうも

んの中で

必死こいてひた走ってんねん」

「ひた走るってどんな状況?」

「床の上を、こう、ぺたぺたとな

ほふく前進するんや、前のめりになって」

「そんなお嬢様みたくないなぁ」

「まぁ、そんで大事な仮面なんや」

「ん?学校に行けば
貰えるんじゃないの?」

「んーとな

まぁ話すと長くなるから

短刀直輸入に言うと」

「直輸入?」

「高2の時に賞取ったんや

その暁に貰った仮面や」

「賞?
ミス軍艦?ミス鉛時計?ミスかぶき者?」

「よーそんなに
間髪開けずに人の悪口を……」

練無は目をそらした

「……さては、今考えたわけ
ちゃうな!」

紫子が練無に襲いかかる

「あーまってよー

僕じゃないよ!森川くんだよぅ」

「森川くんやと!

あの男め、無印良品みたいな顔して、

中身は欠陥品やな

おこだぞ」

「で、なんの賞?」

「ゆうたくない」

「しこさんと僕の中じゃん

僕はしこさんがタンスの何段目に下着を

入れてるかも知ってるよ」

「…………もしや、キミ、見たんか?」

青ざめた表情で練無を見る

「違うよ、この前、部屋を覗いた時に
タンスが開いてたんだよ」

「………あん時って
うちが玄関開けた数秒間やん」


「数秒あれば練無センサーがっ……

ってあれ、どうしたのしこさん、

顔上げてよ」

「れんちゃんのえっち!!

もう知らんで!!

出てって!!」


「しこさん
ごめんごめん、でも、大丈夫だよ

しこさんの下着には

全然興味ないから」


練無が顔の前で手を振る


「なんやとう……」

「なんで怒るのさぁ

どっちに転んでも

しこさんの怒りを買うんじゃん」

紫子が練無にクッションを投げつける

練無は横にそれて

クッションを避ける

「あっ!」

「どうしたれんちゃん?

舌でも噛んだか?」


「それじゃない?」

練無はクッションがあったソファを指差す


「あっ!これやこれ!」


それは立派な金メッキの額縁に

いれられた

目の周りを覆い隠す黒の仮面


「わぁー仮面っていうからさぁ
お多福さんみたいなのか
マスクマンのミドリマスクとか
想像してたけどめっちゃかっこいいじゃん!」

「そや、舞踏会やもんな

踊っている間はこれ外しちゃあかんのや」

「それがルールなの?」

「紳士淑女のたしなみ」

「シンシシュクジョ?
そういう名前のブルドーザーかな?」

「うちはお嬢様!」


「なんかコレ書いてあるよ」

「あっ読んじゃあかん!」

練無は額縁に付随している
プラカード上の白文字をよんだ


「親愛なる黒バラ姫へ
聖カトレシア学園」


「…………。」

「ねぇ、どうゆうこと?」

練無は意地悪そうな笑顔を紫子にむけた

いや、実際に意地が悪い


「それが賞や、黒バラ姫賞」



「しこさんが黒バラ姫なの……?」


「そうや」


「ハイド様に黒バラ姫って……

しこさん、通り名幾つ持ってるの?」

「まぁ、ええやろ、
黒歴史なんや
掘り返すなや」


「なんなの、黒バラ姫って?」


「なんつーか、人気投票があるんや

舞踏会の間に」


「人気投票?」


「その年の舞踏会で
ベストカップルを1組決めるんや

その時に選ばれる賞が白バラ姫

白バラ姫はな、好きな相手とダンスが出来るんやけど

そのなぁ、結局、ダンス相手の男ってのも
隣の男子校のよくわからんヤツから選ぶんやろ
なんか面白くないやん

だったらなぁ、学園内の誰かと踊りたいってわけで

裏でコンテストやってんの

そのコンテストの優勝者に送られるのが

黒バラ姫」


「うーん、しこさんとこって

女子校だよね

女の子が男の子より女の子と踊りたいの?」

「………

聖カトレシアはな幼稚舎から高校まで

あるわけなんや

すると1番長くて14年間女子校に

通うんや


すると感覚もおかしくなるんちゃうかな

うちは高校からやし

よー知らん」


「……なんか面白いね……」


「そうでもないで

かなり大変やったで」


「でも、またなんで、行こうと思ったの?」


「男の数が足りないから

助っ人用人が欲しいって学園から

頼まれた」


「どうするの?」


「ズカ部に頼んだんや」


「ねぇ、しこさん」

「なあに?」


「僕も行っていい?」


「はぁーーーー?」
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