阿漕荘の2人

November November 3

紫子side


ビートルはとうとう、富士ウエスタン パークの駐輪場に着いた

紫子が心配するような事故は

もしくは事件は一切なく


練無はスムーズに車を停めた


「はよ、行くで、れんちゃん!!

もうすぐお昼になっちゃうやないか

遊ぶ時間ないで!!」

先ほどとはかえって

香具山 紫子は脚をバタつかせながら

ビートルの鍵を閉める練無に言う

「もぅ…あんなに

文句言ってたくせに、着いたらコレだもん

現金な子だなぁ」

「何事も現ナマに限るんや」

「そうじゃないし………」


2人はチケット売り場に向かう


土曜日であるため、混んでいるだろうと予想していたが、それほどではない


おそらく、12月の閉園を前にして

天気が良いわりには
薄手のマフラーが恋しくなるような寒さゆえだ



大きな帽子をかぶり、胸には保安官バッチ、腰にガンベルトをまきつけている巨大な犬のぬいぐるみが
歩いている


中は暖かいのだろうか、されとも
暑すぎるのだろうか


どちらにしても、可哀想に

時給いくらだろう


と紫子は考える


今ごろ、

阿漕荘の誰かの布団の中でうずくまる

開放犬 ネルソンにも見習って欲しいと……

「くわー!
楽しい、もうな、れんちゃん!
遊園地やで!!
しかも、できたてほやほや!!
まだ、温もり残っとるでな」


「しこさん、テンション上げすぎだよ!

僕、ついてけないなり」


紫子は案内板に取り付けてある入れ物から
ガイドブックを取り出し、広げる




「なぁ、れんちゃん!

ここいこ、ここいこ!

あのあのあの、ほら、ガンマン。

二酸化ガンマン。

そりゃ、君、マンガンやろ!

すいまシェーン カン バーク」


「寒いなぁ」


練無が顔をしかめる


「れんちゃんも絶対気にいるって

西部劇の格好が出来て…………


ピストルをバンバンして、

馬とかに乗ってな………

酒場で踊って、ふんわりの


コスプレやん、君の十八番やん!

うちはちゃうで、ガンベルトやも。

くぅ!ガンベルトゆうても、ベルヘラルドと間違えたらやーよ、くぅ!」


紫子は練無の袖を引っ張る


「なんか…しこさん、やたら詳しくない?

ってか、詳しすぎない?

誰かと来たことあるの?」


あら、なんてまぁ


感の鋭い子なんでしょ、



ここは知らんふり、知らんぷり………



「あっ!もしかして!

予習したんでしょ!!

ホームページとか見ちゃってさぁ

しこさんって、案外、そういうタイプだもんねぇー


やだぁ、顔赤くなってやんのー


そりゃ、バレたら恥ずかしいよね

さっきはあんなに嫌々な感じだったもーん」


練無が得意げに紫子を見る


紫子はかまわず、前に進む


「別にいいやんか、


うちはな、最大限に楽しみたいんやもん



そのためなら、予習や復習なんて……」



「そのヤル気をお勉強に費やせば

どれだけ……」

「おい!なんやとう」


紫子が練無の袖をひねる



2人はライフル射撃をやってから、

ファスト フードのレストランで

ランチを食べようとしたが

店内は混み合っていて、座れない

仕方がないので

2人は諦めて、先にアトラクションを楽しむことにした



練無はジェットコースターに紫子を連れて乗ったが

暗闇の中で身体が振り回されるだけで

たちまち終わってしまった



何処がウエスタンなのか理解できない


しかし、練無と紫子は

ずいぶんと楽しめたようだった


「しこさん、面白かった?」

「うーん、まだまだ不完全燃焼やね〜」


「しこさん、意外に刺激を求めるタイプだもんね」

「意外か、それ?」

「気づいてたら、返り血浴びてるタイプ」


次に乗ったのは、馬車の形をした2人乗りのゴンドラで、動きはゆっくり
だった

これも、暗いトンネルをくぐるだけで

なんの恐怖もない、子供騙しだった


動きの悪いロバたちが

酒樽を転がしたり

酒に酔っ払って大騒ぎしている、

というパロディを観ながら

進行するのだ



「あれって、しこさんにそっくり」

「どれどれ、

わぁ、めっちゃ可愛いやん


どうしよ、うちモテモテやん」


「そうだね、選べないよね、で、

花婿はどのロバがイイ?」


「うちはあんな怒ってるロバはいやや、

家庭内暴力の始まりやん

なして、あいつは怒ってんねん」


「さぁ?しこさんが来たからじゃない?」

「嫌われてんなーぐすっ」


「どうしたの?ナイフでも刺された?

大量出血?」


「お涙、大量や」

「大漁?祭りだね〜」


「ところで、れんちゃん?」


「なあに」


「こうゆうさぁ

前後に乗る2人乗りの乗り物って

普通な

女の子が前ちゃうの?

なんで、うちが後ろなん?」


「ほらさぁ、見た目的にさぁ

やっぱり、大きいのが後ろじゃないと…

ね、格好つかないでしょ」

「いやいや、周りのカップル見てみ

女の子前やん、常識やん」


「僕的にはコレで正解だよ、お得、お得」


「なんでぇ?」

「しこさんに抱きつかれてる」


「…………そのまま、握り絞るで」
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