阿漕荘の2人

サンタクロースの忘れモノ 1

練無side

12月の初め

国立n大学 医学部 c練 実験室b

次の授業は人間遺伝学の講座だった


お昼休みのうちに移動した小鳥遊 練無

と彼の友人 松川 が席に着いた

実験室にいるのは、自分たちを含めても

10人に満たない


「これ、ナナちゃん人形の設計図なんだけどさ」

松川が一枚の製図板を見せた

「え！これどうしたの？」


僕は焦って松川を見た

医学部に製図板があるなんて…………


「サークル仲間に工学部の建築学科がいて…………」

「借りたの？」

「パクった」

松川は平然と答える

僕は慌てて彼の肩を叩く


「おい！ダメじゃないか！
見つかったら怒られるどころじゃ済まないぞ！」

「いやさあ、最初は見して貰うだけだったんだけどな、なんか見てたら、どうも計算が合わなくてな………」


「それで持ってきちゃったの？！


ってか、ナナちゃんってn大で作るの？」

「あれ？言ってなかったか？」


「言ってない」


「まぁ、見ろよ

製図板なんて滅多に見られんぞ」

松川は僕の手を振りほどき

無理やり製図板を見せる

「共犯にするつもりだろ、その手には乗らないぞ」


「まあ、見ろよ」

「これ、なんで作るの？」

ナナちゃん人形は高さ5メートル
奥行き1メートルの巨大人形だ


先日、捕まった親友ネネちゃんの無実を訴えるためのモニュメントだ

「ブロンズだ」


製図板にはナナちゃん人形の前後左右からの見取り図と

数字が書いてある

「小鳥遊、お前、ブロンズの重さ知ってるか？」

「さあ 、持ち上げたことないからなあ」


「考えろ」



「だいたい人間の3倍くらいだよね

だから…………、体積が27倍

ブロンズの比重は、人間の9倍くらいだね

ナナちゃんの体格からして

80キロとすると80の27倍の9倍………」




「1万9440キロ」



いきなり、背後から女性の高い声がした

僕と松川が振り向く


「約20トンあると考えると

土台のセメントの量がたりませんね


これじゃ、ナナちゃんの重さに耐え切れないもの………


あと、700キロくらい欲しいわね」


「今、計算したの？」

ミディアムくらいの茶髪の女性だった

年齢は同じくらい………


「ええ、そうです」


「君、算盤やってたの？」


「いいえ、計算が得意なだけですよ」


練無の問いに彼女は答えた

さすがの練無も彼女の計算能力に驚いたのだ


「小鳥遊くんよね？」


松川は僕を見た

僕は無言で首を横に振る

「おねえさん、何か用？」

「小鳥遊くんに話があるの」


松川はニヤニヤしながら僕を見る

彼の考えがなんとなくわかったが
否定するのも面倒だ


「じゃ、話して」

「ダメよ、内緒の話なの」

彼女がウインクしながら答える

松川は席を立つ


「小鳥遊、俺、喉かわいたから

ジュース買ってくるぞ」


松川は教室を出て行く


……お前はさっき死ぬほどアクエリアス飲んでたじゃん……


「ここ座っていい？」
「もう座ってるじゃん」

「小鳥遊レンムくん？」

「ちがうよ」

小鳥遊は合ってるけど、レンムは違う


名前は練無 で ネリナ だ

これはちょい苦しいかな

うん、無を練るってちょっと哲学的だから、下々の者にはわからないよ



小学校の時も、いつも先生にレンムって
呼ばれたっけ

言っちゃなんだけど、ようするに、
うちの親父が高尚だったの

だから、仕方がないよ

僕の責任じゃないもん



「わたしのこと、馬鹿にしてる？」


「誰だって名前を間違えられたら
そう思うよ」


「なんて呼ぶの？」


「訓読みするんだ」


「ねりな」


「呼び捨てしないで」


「私の名前は宮下 アキ」


「誰も聞いてないよ」



「どうして、小鳥遊くんってそんなに
挑発的なの？」


「さあ、天気が悪いからかな」


「それは私のせいじゃない」


「なんか用？」

ちなみに今日の天気は雲ひとつない快晴だ


「小鳥遊くん、キミ、バイトしない？」

「バイトならもうしてるよ」


そう、僕は週4で家庭教師のバイトをしている


「時給5000円、一晩だけ」

宮下さんは指を5本立てて、

僕に見せながら綺麗に化粧した顔で笑う




………なんだ、こいつ……


「どんな仕事？」


僕は当たり前のことを尋ねる


もったいぶらずに、自分からすらすら話せばいいのにさ、
相手に尋ねさせないと、先へ進まない話法って、

僕、大っ嫌いなんだ


「もっともね…………そう………

貴方の一晩を私に下さい」

「それ、告白？」

「まさか」


「僕、そういうことはしないんだ」


「そういうってどうゆう事？」


…………わかってるくせに

「僕、女だからって容赦しない」


「一晩だけよ」


「具体的に言ってもらわないと、困るよ

5000円なんて、普通じゃないもん、高す

ぎるもん。警戒するのが当然でしょう？」


「浅はかね………なんでも理由がないと動けないなんて………」




………この女、10分くらい太極拳でもやってたら良いのに………

だんだん腹がたってきた


「これを一緒に受けて欲しいの」

宮下さんは一枚のポスターを差し出した